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第3回:モバイル市場を牽引しているのは誰?/W-ZERO3の心臓部「CPU」のヒ・ミ・ツ - 第3回

第3回:モバイル市場を牽引しているのは誰?/W-ZERO3の心臓部「CPU」のヒ・ミ・ツ - 第3回

過去2回にわたり、ARM系CPUの歴史その特徴について見てきた本シリーズ記事も今回で3回目。マーベル ジャパン株式会社 ビジネス デベロップメント マネージャー 漆原秀樹さんのほか、ここからはシャープ株式会社 情報通信事業本部 通信融合端末事業部 第1商品企画部 副参事 横井寿治さんを迎えて、モバイル端末の進化とCPU開発との関係について見ていこう。機器メーカー、コンテンツプロバイダー、CPUメーカーが三つ巴となって市場を盛り上げていく実情をご覧いただきたい。

<人物紹介>

漆原秀樹さん

マーベル ジャパン株式会社
ビジネス デベロップメント マネージャー
漆原秀樹さん

<人物紹介>

横井寿治さん

シャープ株式会社
情報通信事業本部通信融合端末事業部
第1商品企画部 副参事
横井寿治さん

<人物紹介>

遠藤 諭

株式会社アスキー
月刊アスキー 編集人
遠藤 諭

携帯端末における進化のスパイラルとは?

遠藤:携帯端末の進化には、一定のトレンドがあると思います。それは、「端末のスペックが上がる→追加の機能が盛り込まれる→さらにニーズが増えてくる→端末のスペックがまた上がる……」という流れです。要はニーズとそれに応えるためのスペック・機能アップとのせめぎ合いなのですが、こうした傾向はメーカーが主導権を持って生み出しているのですか? あるいは逆に、CPUメーカーから何か働きかけていくこともあるのでしょうか。

漆原:一昔前の携帯端末市場は、いわゆる「プロダクトアウト」の状況だったと言えると思います。今までになかったハードウェアが市場に投入され、一般消費者の審判を受けることで市場が成長していくという。でも今は、サービス内容やコンテンツ自体が、ぐいぐい端末の進化を引っ張っているという印象があります。特に携帯電話は着々と通話定額が各キャリアに浸透していることもあり、新しいビジネスモデルとして便利なサービスを開発して新たな課金メニューを作りたいと考えていると思います。コンテンツをどんどん提供してユーザーに課金をしていかなければ、収益が頭打ちになってしまいますから。
そういう意味で、今は「どういうサービスが求められているのか」を知ることから端末の仕様が決まっていく傾向にあるといえるでしょう。ユーザーはもっときれいな映像が見たいのか、長時間音楽が聴きたいのか。そうしたニーズを適確に把握することで、必要なアプリケーションが決まり、最適なOSも見えてくる。

遠藤:そして最後に、その動作を実現するために必要なCPUのスペックも決まってくる、というわけですか。

漆原:はい。携帯市場のハード・ソフト開発は、キャリア→コンテンツ→アプリケーション→端末→CPUという順に確定していくわけです。「こういうことをやりたい」という発想から、「どんな端末が必要か? どんなアプリケーションが使えるのか? それが動くOSは何か? 最適なプロセッサはどれか? 一体いくらで作れるのか?」といった開発計画が練られるのですね。
ただし、2007年11月に、NTTドコモが「バリューコース」「ベーシックコース」と端末の購入方法を選択できる形に移行したことで、特にキャリアと端末メーカーの間の力関係は、これから徐々に変化していくのではないか、とも思っています。

遠藤:たしかに、キャリアとメーカーの関係は明らかに変わっていくでしょうね。携帯電話の買い方の選択肢が広がることで、ユーザーの主導権も強くなるでしょう。キャリアのみがトレンドを牽引していくやり方も維持しづらくなっていくでしょうから、メーカーが「こういう端末を作りたい」と言ってきた場合に、その希望も反映されやすくなっていくのかもしれません。

漆原:「エンドユーザーは何をしたいのか?」という着眼点がより強く意識されるようになっていくと思います。今まで端末メーカーは、キャリア主導で機種を開発していましたので、エンドユーザーの視点から開発に取りかかることがままならなかったように感じます。民生機器の分野では直接ニーズを吸い上げてそれを機能に反映できることに比べると、少し葛藤するような面も確かにあったかもしれません。

横井:シャープは、ユーザーニーズに合わせてキャリアさんと一緒になって端末を開発しています。だから新しいサービス・コンテンツでも、使いやすい端末ができています。メーカーの立場としては、CPUメーカーには、時代を先回りした開発を行ってほしいとも思っていますよ。先ほど述べられたような「コンテンツ→アプリケーション→端末→CPU」という順ですと、どうしてもCPU開発が後手に回ってしまうのではないか、と。できれば、時代の先の先を読んで新しいCPUを作ってくれることに期待しているわけです。

遠藤:ところで、CPUの開発というはそもそも、どういったやり方でスペックを決めて開発しているのですか?

漆原:難しい質問ですね。プロセッサ開発では、「まず間違いなくこの性能の向上は要求されるだろう」という部分を優先し、そこに関連する部品のトレンドをリサーチしていきます。なかでも一番シビアな検討が必要なのはメモリです。メモリというのは端末全体の仕様にも影響してしまうので、「今から2年後にはどういったタイプのメモリが一番安くて高性能か」を一生懸命調べます。メモリ開発に慣れているメーカーの開発ロードマップなどの情報が入手できれば、それを参考にして、自社でも仕様を検討していくのです。
具体的な機能については、2、3年後の実用化を目指したものであれば、分科会などで規格のバージョンアップなどが話題になっていますので、そういった情報を加味しながら「多分こう来るだろう」という方向で開発を進めていきます。

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遠藤:「業界を隅々までウォッチして、できることは全部やる」といった体制ではないのですね。

漆原:いえ、場合によっては半導体技術をまるごと買って幅広い状況への対応を想定しておく場合もありますよ。
こうして準備が整ったらCPUの開発に入るわけですが、ここで実作業を担うのはハードよりむしろ開発ソフトなんです。仕様に関するプログラムを書いて、シリコン・コンパイラにかけると、もうほとんど出来上がり。プロセッサの開発期間の割合でいうと、規格を煮詰めている時間のほうが、実際の設計や造り込みよりも随分長くなっています。
例えば、今から2年後に量産することを計画しているCPUなら、最初の1年くらいは、どこからどんな技術を調達してくるのか、どこを自社開発するのかといった計画をまだペーパー上で行っている段階です。その後、1年くらい前になったらシリコン設計プログラムを書き始めて、半年以内には量産試作に入ってしまいます。新しいプロセッサって、実はけっこうすぐにできるんですよ。

遠藤:そういう意味では、かなり素早くニーズを取り入れて開発に生かせるわけですね。しかし、個人的にはCPUメーカーが、ニーズには関係なく、誰も考えないようなものを作りだしていかないと業界全体が面白くならないんじゃないかな、という気がします(笑)。もっと社内のシーズを積極的に形にして、誰も考えないようなCPUを提案する。それをどう生かすかを端末メーカーが考える、という形です。

漆原:なるほど。もちろんそれに近い形での端末メーカーへの提案は行っています。ただ、“シーズ”のニュアンスがちょっと違っていて、社内のシーズから新しいプロセッサを作ることに先がけて、まず今ある手持ちのプロセッサを業界にとってのシーズと見なして、「これでどんな新しい市場(用途)を作っていけるのか」を考えるというようなかたちです。

遠藤:と言いますと?

漆原:私もよくやるのですが、例えば自社のCPUにさまざまな部品を組み合わせてスマートフォン形の、いろんな機能を詰め込んだ試作品を作ってみるのです。これを、メーカーに持って行ったりして、何か新しいチャンスがないか、一緒に考えています。既存のCPUが、端末メーカーにとってのシーズのような位置づけとなっているわけです。

遠藤:そんなこと面白いことやってるんですか? デバイスはちゃんと動くんですか?

漆原:動きますよ(笑)。ウィルコム関連の試作品では、W-SIMが入るLinuxやWindowsCE端末をテスト用のリファレンスマシンとして作ったこともあります。これを実際に作り上げたのは、ソフィアシステムズというツールメーカーですが、この発展形で、Windows Mobile搭載端末をマシンも共同開発しました。

遠藤:その端末は開発用として販売されたのですか?

漆原:はい。OSもアプリケーションも体験版として、付属しています。本格的に使いたければ、それぞれのソフトや部品メーカーに問い合わせてください、という形で。
これはエンドユーザー向けの端末ではありませんから、最終商品レベルまでの仕上がりとまではいかなくても、端末として一通りの動作・機能を評価することができると。そこから端末メーカーとも話を広げていくことができます。

スマートフォンに“向かうべき道”はあるか?

遠藤:今、端末メーカーへの提案という話がでましたが、逆にシャープとして「こんなことをやってほしい」という希望はありますか?

横井:やはりなんといっても性能の向上でしょうか。
W-ZERO3の開発をつぶさに見てきて一番強く思うのは、携帯電話とスマートフォンのユーザーでは、携帯電話のユーザーは今の機能に満足している人がけっこう多いということです。
一方、スマートフォンは、更なる機能向上も期待されています。一番わかりやすいのはWordやExcelなどで作ったビジネス文書をスマートフォンで開いたときです。スマートフォンのユーザーは、「パソコンではこう見えて、こう編集できるのに、どうしてできないんだ」といつもこぼしている気がします。ユーザーの率直な希望は、「Windowsが乗っているのだから、パソコンと同じレベルにまでならないのか」ということなのでしょうね。
こうしたニーズを実現していくためには、やはりもっとCPUのパワーが必要になってきます。
W-ZERO3が視野に入れている市場には携帯電話ユーザーも含まれるのですが、やはりビジネスで使おうと思っているユーザーに向けて、「もっとパワーがあって、低消費電力で、もっと高速なワイヤレス通信があって……」というところを追求して行かざるを得ません。

遠藤:まだまだパワーが欲しい、というわけですね。デバイスが大きくなってしまいませんか?

横井:それを小さく作るのはメーカーの腕の見せ所ですね(笑)。もちろん同じ消費電力のままでそれを実現したい、というのが希望ですが。

遠藤:そう考えると、携帯電話とスマートフォンはやはり別物ですね。

横井:ええ。携帯電話は、買った時点でもう十分機能が備わっているわけですが、スマートフォンの場合は、アプリケーションを追加して使いやすくしたり、周辺機器をつなげて目的の用途に満たせるようにしていく、という使い方ですから。

遠藤:携帯電話って多機能ですけど、実は一人ひとりはそれほど多くの機能を求めていないですよね。一台の中には、通話、メール、カメラ、ワンセグ、ゲーム、音楽再生などといろんな機能が盛り込まれていますが、一人のユーザーが日常的に使うものは、けっこう限られていて、使い方も比較的パターン化されている。
スマートフォンの場合は、最初から機能が盛り込まれすぎていても好みの使い方に合わせづらいし、使える機能が少な過ぎても不満が残ります。
そういう意味では、多機能・高速化をまだまだ求めるユーザーがいる一方、真に普及するために「スマートフォンがどこまで進化すればいいのか」という落としどころは、実はすごく難しいのではないかな、と思います。

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漆原:今のスマートフォンの状況は、20年前くらいのパソコンの状況と似ているかも知れませんね。当時は、目的意識がはっきりした「ワープロ」と、目的意識がはっきりしない、いわゆる普通の「パソコン」がありました。パソコンは、もともと特定の使い方(目的意識)を満たすために作られているわけではなく、「個々の目的に必要なソフトを(後から)入れてください」と、ユーザーに使い方の判断を委ねたわけです。
今の携帯電話とスマートフォンの棲み分けはちょうど昔のワープロとパソコンの関係によく似ていると思うのです。つまり、携帯電話の機能というものは最初からソフトが殆ど内蔵され、使い方(目的)が明確なのに対して、スマートフォンはユーザの個々の使い方により機能を広げられるという形で、ユーザの判断に委ねています。スマートフォンは、このような「パソコン」と同じ本質を目指しているわけなのですが、こうした端末は、先端を走るユーザーには制約がない分、使いやすくて楽しいけれど、普通の人から見ると、「どうすれば携帯電話みたいに簡単に使えるの?」と戸惑いを招くこともあるのでしょうね。

遠藤:このギャップをどうやって解決していくのかは、考えていく必要がありますね。

漆原:パソコンの場合も結局、ソフトをプリインストールして使い方の例(目的意識)を提案することと、インターネットツールとしてユーザーの裾野を広げてきたわけです。学校などでも使われて、初等教育からパソコンに触れることが当たり前となったことも、普及には大きく貢献しているでしょう。
ではスマートフォンはどうすべきか。パソコンに比べれば、できることには随分限りがありますが、持ち歩きやすいサイズでどんな新しい使い方を提案できるのかが、やはり携帯電話のユーザーを裾野として取り込んでいくカギになっていくのかもしれません。

以上、端末メーカー、CPUメーカー、ユーザー代表という三者が携帯端末の機能向上の模様や課題を語ったが、いかがだったろう。本シリーズ記事の最終回となる次回は、「マーベルのこれから」を切り口に、携帯端末の未来について考えていこう。記事は3月下旬に公開の予定だ。<敬称略>

This article posted by staff on 2008/02/28 13:47

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