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マーベルってどんな会社?/W-ZERO3の心臓部「CPU」のヒ・ミ・ツ - 第1回

W-ZERO3の心臓部「CPU」のヒ・ミ・ツ - 第1回

CPUは、いわばデジタル機器の心臓部。パソコンではしっかりスペックをチェックしても、スマートフォンや携帯電話ではあまり意識しないことの方が多いのではないだろうか。そこで当サイトでは、Advanced/W-ZERO3[es]にCPUを提供する米マーベル社の日本法人、マーベル ジャパン株式会社 ビジネス デベロップメント マネージャー 漆原秀樹さんを迎え、モバイル端末のCPUの過去・現在・未来について、全4回にわたり、さまざまなお話をうかがった。第1回の今回は、マーベルの事業を紹介しながら、モバイル端末に搭載されるCPUの歴史を振り返ってみよう。

<人物紹介>

漆原秀樹さん

マーベル ジャパン株式会社
ビジネス デベロップメント マネージャー
漆原秀樹さん

<人物紹介>

遠藤 諭

株式会社アスキー
月刊アスキー 編集人
遠藤 諭

「マーベル」って何?

遠藤:「マーベル」という会社名には、馴染みのない方も多いかもしれませんね。PDAのカタログには、たいていパソコンと同じようにCPUのスペックが紹介されていますが、携帯電話の場合はそうした習慣がありませんから。Advanced/W-ZERO3[es](以下、アドバンスト・エス)のユーザーでも、マーベルの名前をほとんど初めて聞く方は多いかもしれません。

漆原:弊社は、1995年、アメリカのシリコンバレーの一都市、サンタクララに創立された会社です。今回はモバイル端末のCPU事業者としてお話させていただきますが、実はマーベルの主力はストレージ関連半導体事業。なかでも、ハードディスクの信号を高速にデジタルへ変換してCPUに伝達する“デジアナ混載”回路が主力の技術となっています。

遠藤:そうなんですか。しかし、モバイル端末のCPUでも、大半のシェアを確保しているんじゃないですか?

漆原:はい。私も正確な数字を把握しているわけではありませんが、アドバンスト・エス以外でもWindows Mobile機の国内でのシェアはかなり高いと思いますよ。携帯端末にもハイエンドからローエンドまでスペックに幅がありますが、特にハイエンド寄りの端末でマーベル製のCPUが多く使われていると思います。

遠藤:あまり知られていない事実でしょうね。Windows Mobile機やPDAを使い込んでいる人なら、ソフトをインストールしようとするとき、CPUに適合するバージョンを選ばないといけないので、そのメーカーや種類に注意するのは普通です。しかし、携帯電話では追加ソフトをインストールする際に、そこまで気にすることはありません。

漆原:携帯電話の追加ソフトはJAVAアプリケーションが一般的ですから。

ARMが生まれ、マーベルがCPU事業を継承するまで

遠藤:一般ユーザーに自社を紹介するときは、いつもどのようにおっしゃっているのですか?

漆原:最近さまざまな周知活動をしていますが、やはり「インテルの事業を引き継いできた」と説明するのが一番わかりやすいと思います。多くのPDAで採用されている「Intel XScale(インテル・エクスケール)」の名称が、一番通りがいいですね。2006年11月にその事業をマーベルが引き継いだことをお伝えすると「そういえば、そんなニュースもあったね」と言ってくれる方もいらっしゃるという具合です。

遠藤:その前段階でもさまざまな歴史がありますよね。

漆原:ええ。少し振り返りますと、モバイル機器など小さなデバイス向けのCPUは、アーム(ARM)という会社が「ARM」のシリーズ名で1980年代から行っているマイクロプロセッサ開発事業がそもそもの発端でした。そのバージョンがARM6まで進んだところで、米アップル社が手書き入力が可能な端末「Newton(Message Pad)」を開発します。そこで搭載されていたのがARM610というバージョン。アーム社はその後、「より高性能・低消費電力のCPUがほしい」というアップル社の要望を受けるのですが、その際に、当時アメリカで大手のコンピュータ会社だったDEC(Degital Equipment Corporation)と共同で設計・製造したのがStrongARMというシリーズです。これは次の世代のNewtonに採用されました。1997年頃のことです。

遠藤:昔、「アルキメデス」というパソコンの走りのような機器がありましたね。あれもARMのCPUを積んでいた記憶があります。80年代終わりくらいでしょうか。

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漆原:元々、ARMは、英ACORNという会社のコンピュータ向けプロセッサとして開発され、のちにサイオン(PSION)というイギリスの会社が製造する同名のPDA向けのCPUとして進化を遂げました。ちなみにPSIONのOSは英シンビアン社に引き継がれていますね。そしてその進化したCPUが、Newtonに採用されたということになります。

遠藤:それがStrongARMの段階で大きく進化した。

漆原:はい。デックは当時、サーバー用プロセッサの分野でインテルと激しい競争を行っていたため技術・知識が蓄積されていました。これを応用することで、より高性能・低消費電力のCPU開発が可能となったのです。しかし、アップルがNewton開発から撤退してしまったので、StrongARMの開発は、マイクロソフト社のWindows CE(今のWindows Mobile)端末の方に展開がシフトしていきました。並行してその頃、デックは半導体事業をインテルに譲渡したため、その後のWindows CEのCPUはインテル製が中心となりました。ちょうどWindowsCEもハンドヘルドPCからポケットPCへと変革を遂げていく時期ですね。このときStrongARMはアーム社のライセンスでしたから、インテルはデックから半導体事業を引き継いだ後に、アーム社から正式にCPUアーキテクチャ設計ライセンスを取得して、後のXScaleマイクロアーキテクチャの開発に取りかかったのです。

遠藤:国内では、シャープがカラーザウルスを何台かリリースしていた時期と重なりますね。ちなみに、XScaleとはどういう意味なのですか?

漆原:由来は定かではありませんが、俗に「eXtended SCALability」(さらなる拡張性)から、と言われています。インテルはStrongARMのライセンスを引き継いだものの、仕様の都合で製造できるのは旧デックの半導体工場に限られていました。そこで、世界各地にあるインテルの工場で生産可能な製品を作り直すべく、アーム社の公認ライセンスで別ブランドのCPUを開発したのです。

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遠藤:XScale開発時は、すでに携帯電話も視野に入っていたのでしょうか?

漆原:そのはずです。パソコン以外の新しいデジタル端末の市場として、成長著しい携帯電話の分野はすでにインテル社内部でも注目されていました。1996~97年にiモードが登場・浸透していった時点で、携帯電話においてもデータ通信の快適さが重要な機能の一翼を担うことが予想できていましたので、CPU開発の方向性も半ば予想されていました。2001年頃には国内の携帯電話でもStrongARMを搭載した機種が登場しています。

遠藤:そしてIntel XScaleの事業へと進んで行ったわけですね?

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漆原:ええ。インテルはすでにパソコン関連のほか、交換機に至るファイバー系などの(有線)通信、携帯電話、PDAなど、実に幅広い分野でプロセッサ事業を手がけていました。XScaleプロセッサ関連事業はインテルのプロセッサ・アーキテクチャとしてはパソコン向けのプロセッサに次ぐ基幹のアーキテクチャの1つにまで成長していました。しかし、最近インテル全体のビジネスが伸び悩みの時期にさしかかり、事業を集約して資本投下を集中させる必要に迫られていたのです。インテルはそこで、本業としてパソコン系の事業に特化していく選択をしました。マーベルは、そのうちの携帯端末のネットワーク系事業をインテルから買収したわけです。昨年(2006年)のことです。

携帯電話以上ノートパソコン以下の市場をめざして

遠藤:マーベルがモバイル端末のCPUを扱うようになるまでの経緯はよくわかりました。次に、そのねらいについて、詳しく教えてください。

漆原:もちろん、次世代の携帯電話やモバイル端末に向けてプロセッサを提供し、より多くのマーベルCPU入り端末が広くユーザの支持を得られることを願っていますが、現在のモバイル端末の市場は、もはや資本を投下すればその分、単純に広がる市場というわけではありません。そこで新しい提案が必要なのです。例えば、シャープのデジタル端末もラインナップを液晶ディスプレイの大きさという側面から見ると、携帯電話やザウルスの次は、十数インチのディスプレイを持つノートパソコンへと一気に大きくなっています。携帯電話とノートパソコンの中間サイズのデバイスがない。プロセッサを始めとする部品で中間サイズのものが少ないため、敢えて生産するとなると、ノートパソコンよりもコストがかかってしまうせいでしょう。

遠藤:裏を返せば、この分野での製品開発を成功させれば市場を広げるチャンスになるともいえますね。

漆原:はい。最近、デジタル機器をセグメント化する用語にインテルが提唱するMID(Mobile Internet Device)という言葉があります。デバイスの種類を小さい順に並べると、携帯電話/スマートフォン→PDA→MID→ノートパソコン→デスクトップパソコンとなります。モバイル端末でも、このMIDの分野なら、まだ市場開拓のチャンスがあると考えられているわけです。

遠藤:iPhoneなんかはMIDといえますか?

漆原:どちらかというとスマートフォン寄りでしょうか。iPod Touchのほうが「MID」のニュアンスには近いと思います。無線LANなどのブロードバンドでモバイル通信を実現するような端末です。

遠藤:なるほど。

漆原:従来のPDAのおもな機能は、「PIM(Personal Information Management:個人情報管理)」です。つまり、PDAは、自分を管理するためのツール。ユーザー層もシステム手帳を使うビジネスパーソン、特に30歳代が最も多くなっています。
それに対して、MIDはもっとインターネットを使いこなしたいと思う幅広い世代の人たちに向けたデバイスです。PIM機能も必要ですが、それはアプリケーションの1つとして盛り込まれていれば十分と見なされます。この点は、初期のザウルスに求められていた機能とは大きく転換している点といえるでしょう。

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遠藤:要は、マーベルがインテルのXScale事業を買収したのは、アドバンスト・エスのようなスマートフォンを経て、このMIDにまで事業を広げていきたいねらいがあるわけですね?

漆原:ええ。ただし、想定しているのは、もっと規模の大きな展開です。マーベルは、通信の分野でも無線LANやBluetoothへの対応では既に実績がありましたが、インテルのXScale事業を吸収したことで、実はW-CDMA通信の技術も手に入れることができました。これによってマーベルは、アプリケーションプロセッサと無線通信の技術の両方を手中に追加できたことになるのです。さらにマーベルは、ほぼ時期を同じくして、UTスターコムの中国向けのPHS事業も買収しています。
こうして、「W-CDMAとHSDPAのような新しい携帯電話の通信規格に対応しつつ、中国のPHSビジネスでシェアを伸ばしていく」という展開が見えてきました。つまり、インテルのXScale事業買収は、ワイヤレス事業全般に事業を拡大するための1つの足がかりというわけです。

遠藤:なるほど。マーベルの最近のビジネス展開は、モバイル事業そのものともいえますね。

以上、CPUの歴史を振り返りつつ、マーベルのプロセッサ事業についてうかがった。次回は、パソコンとは異なるモバイル端末用CPUならではのニーズとその対応について話を続けていこう。記事は、2008年1月下旬に公開の予定だ。 (敬称略)

This article posted by staff on 2007/12/26 19:53

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